総合的な学習の時間における平和学習・平和教育のあり方に関する提案

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総合的な学習の時間
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教育現場で扱われることの多い「平和」をテーマとし、それを「総合的な学習の時間」の中でどのように扱っていくことができるのかについて検討していきたいと思います。タイトルは、「総合的な学習の時間における平和学習・平和教育のあり方に関する提案」となっていますが、「総合的な学習の時間」以外の授業でも活用可能な情報を記載したつもりです。

想定をしている読者の方は、

  • 小学校・中学校・高等学校で現在平和教育を受けているものの、押し付けられている感覚を抱いている児童・生徒のみなさん
  • 小学校・中学校・高等学校で現在平和教育を受けて、平和の大切さについては理解したものの、結局自分は平和のために何をすればよいのかは分からないという状態の児童・生徒のみなさん
  • ご自身が小学校・中学校・高等学校で受けてきた平和教育に対して不満をいただいており、「平和教育なんていらない!」と思っていらっしゃる大人の方。
  • 年齢を問わず、言葉では上手く表現できないけれど、平和教育の在り方になんとなく疑問を感じている方

です。

参考文献欄には、「平和」について生徒が議論できるようになるために、著者自身が目を通した書籍を記載しました。学校は、教員の思想を押し付ける場ではないので、ある話題に対して多面的な情報を生徒に提供できるよう、幅広い情報を取得することに努めました。

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はじめに

 平和の定義は複数存在する。そこで、今回はまず平和を「暴力の不在」であると定義した上で議論を進めることにする。また、「暴力」に関して、「ある人に対して影響力が行使された結果、彼が現実に肉体的、精神的に実現しえたものが、彼のもつ潜在的実現可能性を下まわった場合、そこには暴力が存在する」と定義する。この「暴力」に関する定義を踏まえ、平和を「その人が持つ潜在的実現可能性を何者にも妨げられずに自由に実現できる状態」と再定義する。(竹内、p.43)この平和の定義を踏まえた上で、国家単位での平和維持のあり方を考えていく。
この投稿の主な目的は、以下の3点である。

  1. 国家レベルでの平和の維持について、情報を客観的に分析し、必要な要素を抽出した上で、それらの要素を戦略的に組み合わせて、平和維持のための方法を立案できる。
  2. 平和維持に対する自分の取り組み方針を自分の言葉で説明できる。
  3. 上記の作業を通して、問題解決の方法及び「自分なり」の答えを創造する方法を体得する。

「2.資料」では、平和の維持に関連して、幅広い情報を記載することを心がけた。「3.総合的な学習の時間における授業の提案」では、平和の維持に対する「自分なり」の解決案を構築するための方法を提示した。
また、この文章では、上述した3つの目的に加え、「総合的な学習の時間」の目標(文部科学省、p.351)も達成することができるように、資料と授業提案の内容を選択した(表1)。表1の「この文章の内容」の詳細は、「2.資料」及び「3. 総合的な学習の時間における授業の提案 」に記されている。

表 1 「総合的な学習の時間」の目標とこの文章の内容との対比

「総合的な学習の時間」の目標 この文章の内容
横断的・総合的な学習や探求的な学習を通して、 平和維持に関わる要素について、武力と非武力の2項対立のみに関わらず複数の要素についての探求、及び世界各国の平和維持に関する学習を通して、
自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に、判断し、 グループによる議論や「核兵器は抑止力」仮説の検証によって、自ら学び考える機会を得て、
よりよく問題を解決する資質や能力を育成するとともに、学び方やものの考え方を身に付け、 問題解決の手法を学ぶことで、問題解決能力を高めることができる。
問題の解決や探究活動に主体的、創造的、共同的に取り組む態度を育て、 重回帰分析の考え方を応用することにより、複数の要素を統合して「自分なり」の考えを構成することの楽しさを学び、
自己の在り方生き方を考えることができるようにする。 平和の維持に関して、今自分が何をなすべきか、そして、将来何ができるのかを考えることができるようにする。

参考として、文部科学省のウェブサイトに記載されている「総合的な学習の時間」の目的を以下に記述しました。

「総合的な学習の時間は、変化の激しい社会に対応して、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てることなどをねらいとすることから、思考力・判断力・表現力等が求められる「知識基盤社会」の時代においてますます重要な役割を果たすものである。

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/sougou/main14_a2.htm

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資料

平和教育の歴史

1970年代~90年代前半

  • 戦争学習に関する多様な教材・実践の広がりと理論的整理
     広島・長崎への修学旅行、戦争児童文学の読書などの試みが広がった。戦争体験の聞き取りや地域の戦争遺跡の調査学習などが平和教育実践に取り入れられた。(竹内、p.35)
  • 戦争の被害体験(原爆、空襲等)に加え、加害・抵抗・加担をも組み込んだ戦争学習の展開
     これまでの戦争に対する学習が、原爆・空襲などの被害体験が中心であったという狭さが反省され、加害の事実も丁寧に教えようという気運が高まり、そうした実践と教材作りが80年代に展開した(竹内、p.38)。なぜ加害が行われたかのか、そして、どうすれば加害を繰り返さずに平和な世の中をつくることができたのかという前向きな展望と希望を獲得する授業に注目する人物が現れた(竹内、p.39)。

1990年代半ば以降

  • 日本社会の「暴力化」(軍事力や強権による「平和」への主張、非暴力的方法への迷い、憲法・教基法改定の動きなど)への対抗軸を示しきれなかった。
     冷戦後の世界と日本を取り巻く国際関係への不安定化-東欧激変、北朝鮮・中国の「脅威」、9・11とアフガン・イラク戦争など-がうち続くことで、「平和を欲するなら、戦争に備えよ」という言葉が現実味を帯びてきた。一方で、それらの状況を乗り越えるための具体的で現実的な道筋を、平和教育は示し切れなかった。(竹内、p.50)
  • 構造的暴力に焦点を当て、開発・人権・環境をも課題とした(80年代以降)
     ヨハン・ガルトゥングが1960年代以来提唱してきた構造的暴力(人権抑圧・飢餓・貧困・環境破壊など)の理論により平和概念は拡大され、それが平和教育の理解・射程をも広げることとなった。

平和に対する国民の考え方と平和教育の課題

平和に対する国民の考え方

  • 非軍事・非暴力の平和的方法による現状克服への展望を若者が持てなくなっている(竹内、p.5)。
  • 人々は、武力(自衛隊)による平和か、武力によらない平和か、で迷っている(竹内、p.7)。
    →なぜこの2項対立で議論を進めなければならないのか?平和を維持するためには、その2つの対立概念以外にも考慮すべきことがあるのではないのか?

平和教育の課題

  • 平和教育が戦争のない世の中を目指して展開してきたにもかかわらず、戦争を克服し紛争を非暴力的に解決する確信を育てることに成功していなかったのではないかという点(竹内、p.ⅰ)
    →戦争のない世の中を作るのための方法、すなわち、問題解決のための戦略的思考を鍛える機会が少なかったのではないだろうか?

危機の前後における人々の変化

岩手県普代村の防潮堤

  • 1984年完成当初:高さ15.5mの防潮堤は、大きすぎると非難を浴びた(国土交通省、p.6)。また、「そんなに高い堤防が必要なのか」という批判的な声も一部あった(岩手日報)。
  • 2011年の東日本大震災後:同地区に住む太田喜一郎さん(82)は「普代が守られたのは堤防と水門のおかげ」と話す(岩手日報)。
    →「防潮堤」を「平和の維持のための準備」に置き換えてみる。現在の日本が行っている「平和の維持のための準備」に対する私たちの批判は、危機を本当に意識した上での批判なのか?

御嶽山の地震計

  • 御嶽山が噴火して初めて、山頂近くに設置した地震計が2013年8月に老朽化のため壊れ、地震を観測できていなかったことが分かった(産経ニュース)。
    →人間は危機に対して盲目である。私たちは平和の危機に対して十分な準備ができていると言えるのだろうか?

自国の力で平和維持を目指す場合の論点

非武力による平和維持 ~憲法9条を中心にした法律による制約を題材に~

 憲法9条の議論をする前に、現在の日本国憲法を正当な憲法としてみなしてよいのかという議論をする必要があると思われる方もいるかもしれない。しかし、その議論は本章の趣旨から逸脱しているため、今回は、宮澤俊義の8月革命説を踏襲し、日本国憲法は正当な憲法であるという前提で議論を進めていくこととする。

<肯定派の意見>

  • 憲法9条があったからこそ、戦後60年以上、戦争に巻き込まれることがなかった。憲法を改正すれば、アメリカの世界戦争の餌食となって、戦争に加担する可能性が限りなく大きくなる(野村、p.23)。
    →「憲法9条があった」から、「戦争に巻き込まれることがなかった」のならば、その因果関係はどのように論理的に説明されるのか?「憲法9条があった」状態と「戦争に巻き込まれることがなかった」状態とが、たまたま同時期に生じていただけという意見に対して、どのように反論するのか?

<否定派の意見>

  • 憲法第九条が禁じているのは、日本が他国を侵略することであって、他国(たとえば冷戦時代のソ連)に日本への侵略を思いとどまらせていたのは、日米安保体制の抑止力であった。(伊藤、p.11)
    →だからといって、憲法第九条が戦争の抑止力として機能していなかったわけではない。
  • 日本人のいわゆる「平和主義」の問題は、日本人が平和の問題をすべて他人事視しているという点である。「あれもしない」、「これもしない」と否定形でしか語らない消極的平和主義は、偽物の平和主義である。(伊藤、pp.175-176)
    →仮に消極的であっても、平和を維持できるのならそれで良いのではないか?

武力による平和維持

<肯定派の意見>

  • 究極の抑止力・核兵器で国防と外交を強化するべきだ。絶対に使われることがない兵器ではあるが、核兵器をもっている国ともっていない国とでは、外交交渉力において格段の差が生まれてしまう。外交のテーブルに立ったときの圧力がまったく違う。(田母神、pp.228-229)
    →究極の抑止力と断言できる科学的なデータはあるのか?実際に1945年に使用されているのに、絶対に使われることのない兵器となぜ断言できるのか?原爆の被爆者の方々を前にしても、この言葉を言えるのか?

<否定派の意見>

  • 抑止力が有効に働くための条件として、自国の軍事力が仮想敵国の軍事力よりも大きくなければならない。そのため、双方の際限のない軍備拡張競争が続いていく。抑止力となりうる最小限の軍備を持つという考えは成り立たなくなる。(野村、pp.80-81)
    →武力を一切保持しない場合に、万が一攻撃されたら誰が責任を取るのか?
  • 人間の心理として、武器を持てば必ず、その使用が自衛目的に限定されていたとしても、何らかの口実を見つけて使いたくなるものである。武力が独り歩きする可能性は否定し切れません。(野村、pp.82)
    →この理論の妥当性を示す科学的なデータはあるのか?仮にこの理論が正しかったとしたら、日本の周囲にある国々が武力を使って日本を攻撃してくる可能性があるということである。その時、日本をどのように守るのか?

テロの防止

  • 近年とくに頻発しているテロ攻撃、これを完璧に防ぐことは不可能である。軍事力世界一のアメリカでさえ、テロ攻撃によって国の中枢を破壊されました。(野村、p.40)
    →当然テロは起きてはならないことである。世界一の軍事力があったからこそ、1回だけのテロ攻撃で済んだという考え方はできないのだろうか?もしそうだとすれば、軍事力を維持することは意味があるのではないだろうか?
  • 国際テロリズムの研究は、マクロ研究とミクロ研究に大別される。マクロ研究では、テロリズムの歴史的考察が行われる。ミクロ研究では、テロの事前防止(政治的リスク分析)やテロリストの戦略研究(武器の種類、爆薬の種類など)等が行われる(大泉ら、p.13)。日本には国際テロリズムを専門に研究している大学の研究所や公的機関は、極めて限られている。したがって、テロ対策の専門的な研究は欧米諸国に比べて極端に遅れている(大泉ら、p.13)。

武力と非武力という論点以外の平和維持① ~情報戦~

  • エシュロンシステム
     エシュロンとは、アメリカ、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドによる世界的通信傍受協力体制のこと。各国の情報機関は、自国を通る通信回線はもとより、国際衛星通信をそれぞれの領内の地上局で傍受し、あるいは他国の地上通信を軍事衛星から傍受し、海底ケーブルを潜水艦などを用いて傍受して、解析し、相互に情報交換している。(鍛冶、p.9)
  • 窃取型攻撃
     2013年6月のアジア安全保障会議で、チャック・ヘーゲル前米国長官は、アメリカを狙ったサイバー攻撃に中国政府および人民解放軍が関与し、その攻撃対象は軍だけでなく、米産業や民間企業にも及んでいると示唆した。(土屋、p.284)
  • 制御システムを狙った破壊型攻撃
     2010年夏、「Stuxnet(スタックスネット)」と呼ばれるマルウェアがイラン国内の核関連施設の遠心分離機を一時的に機能停止に追い込んだ。また、2012年8月、サウジアラビアの国営石油会社アラムコは、イランの支援を受けているとされるハッカー集団からサイバー攻撃を受けた。その結果、約75%のPCのドキュメントとデータが消し去られた。(土屋、p.286)
  • 国家秘密の指定と解除  ~特定秘密保護法案との関係から~
     国立国会図書館のレポート及びGlobal Principles on NationalSecurity and the Right to Information: Tshwane Principles(国家安全保障と情報への権利に関する国際原則)を参照されたい。
  • 超知能
     超知能は軍事利用すれば、敵対国に対して絶対的な優位性を確保できる。米国国防省高等研究局は人工知能とロボットの開発に多大な投資をしている(松田、p.12)。日本政府及び日本の大企業による、人工知能、ロボット研究に関する大規模な取り組みはゼロである(松田、p.10)。

武力と非武力という論点以外の平和維持② ~外交~

  • 外交戦略論
     関係諸国がみな現状維持で満足していれば国際摩擦も国際紛争も起こらないが、現状変更勢力と現状維持勢力が対立する場合には、そこに外交による調整の必要が生じる。法と正義による「説得」、代償利益の提供による「取引」、武力行使の示唆にる「威嚇」などの方法論を駆使して、平和的合意を調達しようとすることになる。(伊藤、p.21)
  • 武力による決定の担保の原理
     武力を行使してみればどうなるかという結果が、あらかじめ相当程度確実に交戦者双方に見通される場合、つまり武力による決定の担保がある場合には、あえて武力を行使するまでもなく、政治的な解決に到達することができるはずである。(伊藤、p.12)
  • 日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書
     2001年から2008年までの8年間に渡り、年に1回、日本政府と米国政府の間で要望書を交換してきた。「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書」は、米国政府から日本政府に対する要望をまとめたものである。(外務省「成長のための日米経済パートナーシップ」の現状)
     米国側からの要望が施策として実現した例としては、郵政民営化がある(日米間の「規制改革及び競争政策イニシアティブ」に関する日米両国首脳への第一回報告書)。
    →米国から日本への要望は実現されている。一方で、日本から米国への要望は実現されているのだろうか?米国と日本の関係が対等でないのであれば、なぜそのような状況になってしまうのであろうか?

世界各国の平和維持の方法

非武装憲法に基づく積極的永世中立政策 ~コスタリカ~

  • 1949年11月7日にコスタリカ共和国憲法が施行される。その第12条に「恒久的組織として軍隊はこれを禁止する」という条項が盛り込まれている。(足立、p.43)
  • コスタリカは、地域的集団安全保障の観念と同時に集団的自衛権を闡明した米州相互援助条約(通称リオ条約)締結当事国である(竹村、p.1)。

武装中立憲法と国際平和協力 ~スイス~

  • 平時においては、戦争に巻き込まれないためのあらゆる安保外交政策をとる義務(中立と独立を擁護する義務、軍事協定を締結しない義務、場合によっては経済的同盟を締結しない義務)などを負い、戦時には、例えば、交戦当事国の一方に対する敵対行為をせず、かつ中立領域が侵害されないようにする義務(交戦当事国の軍隊通過、作戦基地提供などを阻止するなどの戦時中立法の義務)を負うものとされている(澤野、p.36)。
  • 永世中立といわれているが、憲法には「永世中立」は明記されていない(澤野、p.33)。
  • 徴兵制であり、18.5万人(戦時動員数)の兵力を擁する(外務省スイス連邦基礎データ)。

武装永世中立憲法と国際平和協力 ~オーストリア~

  • オーストリアの永世中立の国際法的性格や国内法制度を支えている基点は、「オーストリアの中立に関する連邦憲法法律」である(澤野、p.73)。
  • 徴兵制である(外務省オーストリア共和国基礎データ)。

問題解決の方法

問題の定義

 問題とは、あるべき姿と現状のギャップである。したがって、現状とギャップのない目標から問題は発生しない。また、到達不可能な目標と現状とのギャップは、理論的には解決不可能な問題ということになる。(齋藤、p.16)
 問題を非常に大きな問題として捉えた場合、そして、そのような大きな問題に対して、明確な解決策、答えを出すことはできないことになってしまう。この場合、上述の問題の定義を踏まえると、実現不可能なあるべき姿を描き、それと現実を比較し、問題を定義していることになる。あるべき姿の定義次第でこのように大きな問題が設定されてしまうことは往々にしてありうることだし、時として、このような大きな問題について思想をめぐらすことも重要だろう。そのため、このような大きな問題の存在を否定することはできない。しかし、実社会では、問題が大きすぎると判断された場合には、あるべき姿を定義し直すという方法か、問題を細分化するという方法をとるのが通例である。そのため、筆者は、問題解決能力について議論する場合、問題解決能力を存分に発揮することによって解決策を考案できるような問題について考えていることを前提とした。

問題解決能力の定義

 筆者は、新たな価値を創造できる能力を持った人材が最も求められていると考えている。なぜなら、民間企業においても学術の世界においても、この力を有する人間が評価されているからである。民間企業を例にとれば新商品を開発した人、学術の世界を例にとれば今まで誰も気づかなかったことを発見した人が評価されている。では、新たな価値はどのように創造されるのだろうか。
 その創造のために必要な能力の1つが、筆者が定義する問題解決能力である。筆者が考える問題解決能力とは、以下の4つの能力を統合したものである。

  1. あるべき姿と現状を把握した上で、問題を特定する。
  2. 特定された問題を、ロジックツリーを用いて構造化・細分化する。
  3. 細分化された問題点を解決するために、変えるべきことを見極める。この変えるべきことが課題となる。課題は、「~をすべきだ」という形で表現することが多い。
  4. 課題を具体的な解決策に落とし込んでいく。
    筆者が考える問題解決能力の全体像を図1に示す。図1は、バーバラ(p.14)及び後(p.185)を参考に、筆者の経験を踏まえて作成したものである。

図 1 問題解決能力の全体像

 図1に示すような問題解決の方法を用いれば、小さな問題の解決の積み重ねによって、いずれは大きな問題の解決が可能となる。もちろん、解決に取り組む過程で、初期に設定した解決策が上手く機能しないことも往々にして生じる。その場合に解決策を修正できるという能力も問題解決のプロセスの1つに含まれると言えるかもしれないが、上述した4つの能力を用いれば解決策の修正は可能であるため、問題解決能力には含めなかった。

総合的な学習の時間における授業の提案

個別論点のグループディスカッション

議論の目的

 個別の論点に関して、深く思考することで、その論点について自分の意見を言えるようになることを目的とする。

議論をするために必要な能力

  • 論理的思考力(高田、pp.57、59、63-64)
     論理的とは、「話がちゃんとつながっている」ことである。相手が納得しない場合の反応は2つしかない。「本当にそうなの?」という反応と「それだけなの?」という反応である。
     「本当にそうなの?」という反応は、縦の論理がつながっていない場合、すなわち、話の因果関係が弱い場合に生じる。例えば、「路上駐車は、迷惑だ」と言われたときにあなたは納得できるだろうか。おそらく「本当にそうなの?」と聞き返したくなるはずである。そう聞かれたときに、「路上駐車は、通行車両の妨害になり渋滞を引き起こすため、目的地までの所要時間が長くなるので、急いでいるドライバーにとっては迷惑だ」と答えられるようになる必要がある。
     「それだけなの?」という反応は、横の論理がつながっていない場合、すなわち、全体の捉え方がおかしかったり、漏れやダブりがあったりする場合に生じる。例えば、「好きな異性のタイプは、優しくて家庭的な人」と言われたときにあなたはどう思うだろうか。「優しくて家庭的」と言われると、何か重複している感じがするのではないだろうか。直感として、優しいのは家庭医的に含まれるような気がしないだろうか?このような横の論理の破綻を見抜けるようにする必要がある。
  • 論証力(野矢、p.79)
     論証とは、ある前提からなんらかの結論を導くことにほかならない。ある前提Aから、Aとは違うBを結論しなければならない。しかし、なぜ、AからAへと異なるBが導けるのだろうか。ここに、論証のもつ力ときわどさがある。前提から結論へのジャンプの幅があまりにも小さいと、その論証は生産力を失う。他方、そのジャンプの幅があまりにも大きいと、論証は説得力を失う。そのバランスをとりながら、小さなジャンプを積み重ねて大きな距離をかせがなくてはならない。それが論証である。
     それゆえ、論証の技術にとって最も重要なことは、前提から結論へのジャンプの幅をきちんと見切ることである
    →野矢茂樹氏の『論理トレーニング101題』に書かれている問題はそのまま授業で使えるので、ぜひ一読をお勧めしたい。
  • 質問力
     上記の2つの力を用いて、相手の話の、縦及び横の論理のつながりを確認したり、前提から結論への論理の飛躍を確認したりする能力が質問力である。

議論の例

 「憲法9条があった」から、「戦争に巻き込まれることがなかった」という、その因果関係を論理的思考力と論証力を用いて説明する。「憲法9条があった」状態と「戦争に巻き込まれることがなかった」状態とが、たまたま同時期に生じていただけという意見に対して、論理的に反論できるようにする。

「核兵器は抑止力」仮説の検証

世界各国の基本データの収集

  • 外務省の国・地域というウェブサイトで世界各国の基本データを入手することができる。
  • 授業に英語を取り入れたい場合には、米国CIAのThe World Factbookでも入手可能である。

「核兵器は抑止力」仮説は検証方法

  • 現在核兵器を保有している1カ国を探す。例えば、インド。
  • その国が、いつ核兵器を開発したかを調べる。なお、インドは、1974年に最初の核実験を行っている(岩田、p.32)。
  • 世界史の教科書や資料集を用いて、その1か国と過去に戦争をしていた国を探す。例えば、パキスタン。なお、パキスタンは、1998年に最初の核実験を行っている(岩田、p.61)。
  • インドが核兵器を保有した前後における、パキスタンとの戦争の勃発状況を調べる。
  • 戦争の勃発状況と、核兵器保有との因果関係を考える
    上述の方法と同様の方法を用いて、「武器を持てば必ず使用する」仮説の検証も可能である。

世界各国の知見の日本への適応可能性を考察

 平和を維持できていると考えられる国家を選び、その国家が平和を維持してきた理由及び今後もその平和を維持できる可能性について分析する。資料編で取り上げた、コスタリカ、スイス、オーストリアを題材として用いても良いし、それ以外の国について生徒に調べてもらう形でも良い。表2のように、平和維持に必要であると思われる要素を5つ選び、それぞれの要素について、3つの国の現状を記入する。なお、3つの国の中に日本を必ず含めることとする。

表 2 諸外国と日本の比較

要素 コスタリカ スイス 日本
法制度               
外交      
軍事      
経済      
国際社会との関係      

 表2を用いて、要素ごとに他国と日本を比較した上で、他国の良い側面をどのように日本へ適応したらよいかについて考える。

数学的な発想を用いて平和維持のための方法を立案

 重回帰分析の考え方を、平和維持のための方法の立案に応用する。重回帰分析とは、複数の説明変数x1、x2、x3、…を用いて目的変数yを説明しようとする分析手法である(式1)(浦上、p.132)。

y = f(x1、x2、x3、…)                               …式1

 例えば、プロ野球選手の打率とホームラン数を説明変数として、目的変数である年俸を重回帰式で表すと、式2のようになる。なお、a、b、cは定数とする。(浦上、p.133)

年俸 = a×打率 + b×ホームラン数 + c                …式2

 この考えを応用して、生徒には、以下のような式3を考えてもらう。

平和維持力 = a×要素1 +  b×要素2 + c×要素3          …式3

 平和維持力、要素1、要素2及び要素3は、0から100の範囲内で変動するものとする。また、a+b+c=1となるようにする。
具体例を示すと、

平和維持力 =  0.5×法律の力 + 0.3×外交力 + 0.2 ×経済力   …式4

のようになる。式4の意味は、平和の維持は、50%は法律の力、30%は外交力、20%は経済力によって、決定づけられているということである。
式4を作成した上で、生徒は自分が創造した式の根拠を、今まで学習したことを参考にしながら、文章で表現する。例えば、「式4で法律の力を重視したのは、日本国憲法があったことによって、日本が戦争に参加せずに済んだからである。日本国憲法が戦争防止に役立ったと言える理由は、(理由)である。また、式4には軍事力が含まれていないが、それは、コスタリカの事例が日本にも適用可能であると考えたからである。コスタリカの事例を日本に適応できると考えたのは、(理由)だからである。」のように説明をしていく。
 以上のように、平和維持の要素を式3、式4のように表すことによって、平和維持には複数の要素が関わっていること、その要素の影響度は異なることを生徒は理解することができる。また、式4を文章にすることによって、数式を言葉で説明することの練習もすることができる。
 続いて、生徒は、自分が作成した式を用いて、現在の日本の平和維持力を推定する。もし、生徒が、法律の力を70、外交力を40、経済力を80とみなすなら、式4にそれらの数値を代入することによって、日本の平和維持力は63と計算される(式5)。

日本の平和維持力 =  0.5×70 + 0.3×40 + 0.2 ×80
          = 35 + 12 + 16
         =  63                …式5

式5の結果である63と最高値である100との差を問題と認識する。そして、その問題に対して、「2.6問題解決の方法」を用いて、「自分なり」の答えを出す。最後に、「自分なり」の答えとその根拠を小論文にまとめる。

平和維持のための方法に対する自身の関与の方法を決定

  1から4の学習を通して学んだことを踏まえて、自分は今どのように平和の維持に対処していくのか、将来どのように平和の維持に貢献していくのかに関する小論文を書く。

提言

 平和を維持するためには、武力と非武力の2項以外にも、様々な要素が関わっている。非武力による平和を信じる人は、それ以外の考え方に触れたくないかもしれない。逆もまたしかりである。しかし、自分の考えを相手に理解してもらうためには、相手の考えも理解して、自分の考えと相手のそれとの距離を言葉で説明できるようになる必要性があるのではないだろうか。そして、この相手を理解しようとする姿勢は共生にもつながるはずである。将来を担う若者が互いの考えを理解し、統合させることによって、平和な世界を構築してくれることを願ってやまない。

日本語参考文献

※以下の参考文献に含まれる書籍名をクリックするとAmazonのサイトへ移動します。

足立力也(2009)『平和ってなんだろう「軍隊を捨てた国」コスタリカから考える』岩波ジュニア新書

伊藤憲一(2007)『新・戦争論 積極的平和主義への提言』新潮社

今岡直子(2013)「諸外国における国家秘密の指定と解除-特定秘密保護法案をめぐって-」『調査と情報』Number806 2013.10.31.号 国立国会図書館

岩田修一郎(2010)『核拡散の論理 主権と国益をめぐる国家の攻防』勁草書房

『岩手日報』 2011年4月24日
http://www.iwate-np.co.jp/311shinsai/sh201104_2/sh1104247.html
Wix http://ja.wix.com/

後正武(1998)『意思決定のための「分析の技術」』ダイヤモンド社

浦上賀久子(1999)『Excelによる多変量解析の基礎』エコノミスト社

浦田一郎(2012)『自衛力論の論理と歴史 憲法解釈と憲法改正のあいだ』日本評論社

大泉光一・大泉常長(2005)『国際危機管理-国際テロリズムの学際的研究および危機管理対策-』高文堂出版社

外務省『オーストリア共和国基礎データ』
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/austria/data.html#section3

外務省『国・地域』http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/index.html

外務省『スイス連邦基礎データ』http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/switzerland/data.html#03

外務省『「成長のための日米経済パートナーシップ」の現状』
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/keizai/pship_g.html

鍛冶俊樹(2002)『エシュロンと情報戦争』文藝春秋

高田貴久(2004)『ロジカル・プレゼンテーション 自分の考えを効果的に伝える戦略コンサルタントの「提案の技術」』英治出版

国土交通省渡良瀬川河川事務所地域広報官(2013)『渡良瀬川だより No.131』
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000088765.pdf

齋藤嘉則(2001)『問題発見プロフェッショナル-「構想力と分析力」- 』ダイヤモンド社

澤野義一(2002)『永世中立と非武装平和憲法 —非武装永世中立論研究序説-』大阪経済法科大学出版部

『産経ニュース』2014年10月1日
http://www.sankei.com/affairs/news/141001/afr1410010005-n1.html

竹内久顕(2011)『平和教育を問い直す-次世代への批判的継承-』法律文化社

竹村卓(2001)『非武装平和憲法と国際政治 コスタリカの場合』三省堂

田母神俊雄(2009)『田母神塾—これが誇りある日本の教科書だ-』双葉社

土屋大洋(2014)『仮想戦争の終わり サイバー戦争とセキュリティ』角川学芸出版

『日米間の「規制改革及び競争政策イニシアティブ」に関する日米両国首脳への第一回報告書』
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/keizai/pdfs/report2001j.pdf

『日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約』
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/jyoyaku.html

野村昇平(2009)『国の理想と憲法「国際環境平和国家」への道』理想社

野矢茂樹(2001)『論理トレーニング101題』産業図書

バーバラ・ミント(1998)『考える技術・書く技術』ダイヤモンド社

松田卓也(2015)「来たるべきシンギュラリティと超知能の驚異と脅威」『情報処理』Vol.56 No.1 情報処理学会
文部科学省(2009)『高等学校学習指導要領』東山書房

英語参考文献

CIA “The Wold Factbook” https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/

Global Principles on National Security and the Right to Information: Tshwane Principles(2013)

http://www.opensocietyfoundations.org/sites/default/files/global-principles-national-security-10232013.pdf