大学の学費等の減額要求は可能なのか?

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作文・小論文
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4月から大学の学費等の減額要求の是非が話題になっています。9月に入り通学可能な大学が増え、大学生の不満も多少は軽減されているようにも思えます。

とはいえ、私が大学生であれば減額を声高に叫ぶでしょうし、知り合いの大学生の顔が浮かぶので「減額すべきだ!」と言いたいところです。ですが、一息ついてその是非を冷静に分析していきたいと思います。

大学毎に財務状況は異なるので、本来であれば大学毎に学費等の減額要求が可能なのかを検証したいところですが、それをやると相当な時間がかかるので、在籍している学生数が多い私立大学の中でも知名度の高い大学を例にとって考えていきます。

今回は早稲田大学のプレスリリースを使っていきます。なお、早稲田大学を批判しようという意図でこの文章を書いているわけではありません。もし、自分が早稲田大学の学生だったら、どのような論理ならば大学側が授業料の減額に応じてくれるのかを考えてみたかっただけです。なお、私の母校は早稲田大学ではありません。

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収支構造の把握

文部科学省高等教育局私学部が作成している「学校法人会計基準ついて」という資料の9ページに、学校法人が作成しなければならない計算書類(財務3表)として、

・資金収支計算書
・事業活動収支計算書
・貸借対照表

の3種類があげられています。

授業料減額の検討にあたり最も関係しているのは事業収支計算書だと思われます。では、早稲田大学の財務の概要(2019年度)を見てみます。

事業収支計算書

早稲田大学の事業収支計算書を見ると、教育活動収支の中に学生生徒納付金という科目があります。この金額は666.8億円となっており、収支全体の中で半分程度を占めています。支出に関しては、人件費が489.4億円、教育研究経費が431.2億円となっており、この2つの科目が主要な支出となっています。

経常収支が87.7億円なので、学生生徒納付金が13%減少すると、666.8億円×0.13=86.7億円の収入が減ることになり、経常収支がほぼゼロになることがわかります。一方で、人件費が18%増加すると、489.4億円×0.18=88.1億円の支出が増加することになり、経常収支がマイナスとなることがわかります。

以上のことから、学生生徒納付金を減額するとその減額割合が10%や20%程度でも、経営に大きな影響を及ぼすことがわかります。また、人件費についても10〜20%の増加でも経営に影響を与えることがわかります。人件費については少し追加の業務が発生すれば10〜20%程度は簡単に増加してしまいます。コロナウイルスへの対応で教員や職員の業務時間が増加していることは間違いないので、大学側も容易に授業料の減額には応じられないと思います。

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学費等の減額可能性の検討

2021(令和3)年度学部 入学金・学費・諸会費 一覧を見ると、学費は、授業料、実験実習料、学生読書室図書費に分かれていることがわかります。学生読書室図書費の使用使途は分からないですが、少額なのでこの金額の減額を要求するのは妥当ではないとみなし、減額交渉対象から外します。

学費等の減額請求ができるかどうかの判断基準として以下の2点を考えました。

①コロナウイルスの感染拡大前の学生生活と比較して、現在の学生生活で充足されていない点があるかどうか。もし、そのような点があるのならば、相当する分の学費を減額請求できる可能性がある。

授業料は、授業そのものに対する費用と施設使用料に分けられていると考えられます。

前者の授業そのものに関しては、授業で学ぶべきことがオンラインでも学べたかどうかが重要です。オンラインでも、対面の授業と同等の内容を学べたのであれば、減額を求める理由はなくなります。同等でないとするならば、授業料の何割の減額を要求できるのでしょうか?15回の授業が予定されていて、10回しか実施されず、残りの5回については自習をしてほしいという形であれば、授業料の3分の1を減額できるような気がします。

施設使用料に関しては、それがどのような費用と捉えるかによって、減額請求できる対象になるのか、そうでないのかが決まるように思えます。スポーツジムのように契約中は使用頻度に関わらず一定の金額が請求されるという性質のものであれば、たとえ1日も使用しなくても施設使用料の減額はできなくなります。施設使用料を支払えないなら大学との契約すなわち学生であることをやめて欲しいという強硬論が大学側から出てきてもおかしくはありません。

一方で、施設使用料が、マンガ喫茶の使用料のように使用した時間分だけその費用を請求される性質のものであれば、施設使用料の減額の要求は可能のように思えます。もし、この考え方に基づいて、大学が学生に施設使用料を請求しているのであれば、大学構内への出入りを学生証でチェックし、滞在時間に応じて施設使用料を支払うというシステムが確立されている必要があります。体育施設の一部については、部活ではなく個人で使う場合には、時間単位での使用料を課す大学もありますが、それは大学全体のシステムではないので、大学全体としては使用時間に応じて施設使用料を請求するという考えはないと思います。

以上のことから、大学の施設使用料に対する考え方はスポーツジム型に近いように思えます。なので、施設使用料の減額の請求は難しいと感じます。

②一方で、コロナウイルスの感染拡大前と同様の学生生活を維持するために、大学側が追加の費用を投じていないかどうか。この金額が上記の①の金額を上回るなら逆に学費の増額を要求される可能性がある。

コロナウイルス感染拡大に伴って大学が学生に提供できなかったサービス分の授業料を減額するのならば、それに伴って増額した費用も大学は学生に請求できるとみなすのが妥当なのではないかと思います。

早稲田大学の学費に関する考え方についてを読みながら②の点について考えて行きます。

このような設備投資のための資金は、毎年の学費により準備してまいりました。今般の新型コロナウイルス感染症拡大により、大学では例年に比べて多大な出費を強いられています。従来のものに加えて、二つの新しいインターネットを利用した授業用のシステムを導入し、使用回線を大幅に増やしたためです。

早稲田大学の学費に関する考え方

この点はその通りだと思います。システムそのものに費やされる費用だけでなく、このシステム構築作業に従事した職員もしくはシステム会社の社員の人件費も通常以上にかかっているでしょう。具体的な金額が開示されていないので、それがどの程度の金額になるかわかりませんが、多額であることは間違いないと思います。

また

各教員が必死にオンライン授業ができるように、新たなシステムの利用法を学び、そして効果的に教えられるようシラバスを精緻に見直す努力をしております。

早稲田大学の学費に関する考え方

とあります。どの様な契約で教員が雇用されているかはわかりませんが、通常業務以上の労働をしているわけですから、場合によっては残業代が支払われている可能性があります。その場合、通常以上の人件費がかかっているわけです。前述したように人件費が18%増加すると経常収支が赤字になってしまいます。その点を踏まえると大学側は授業料の減額には応じにくいように思えます。

実験実習費については、

今学期の授業形態がオンライン形式であっても、在学中には、かならずそれに見合うだけの教育を享受できるようにいたします。そのため、原則として実験実習料の減額もいたしません。

早稲田大学の学費に関する考え方

と書かれています。実験実習の授業が、今学期に実施されておらず、この通りに在学中に実施してもらえるのなら、減額を請求することは難しいと思います。一方で、この文章からは、卒業までに実習が実施できなければ、実験実習料の返還を請求できると読み取れます。

結論

以上を踏まえ、私なら以下の2つのうちのどちらかの案を選択するように思えます。

  1. まずはコロナウイルスに関して追加で必要になった金額を開示してもらう。もしその金額が教育サービスを受けられなかった対価よりも少ないならば、その差額の返金を請求する。逆のケースの場合には、学費の増額を受け入れる。
  2. 増額請求の可能性があるのでそのまま黙っている。