ベテランの先生は当たり前と認識していることでも、新任の先生にとっては「それをもっと早く教えてくれれば良かったのに」思われることが多々あると思います。今回はその1つと私が思っている「生徒からの相談に対する対処法」について書きたいと思います。
私は何十年も教員をしているわけではないので、ここに書かれていることはベテランの先生にとっては当たり前の内容です。また、洞察力のある先生なら先生を始めて数ヶ月で気づく内容だと思います。ですが、私は先生を始めた時に生徒からの相談にどのように応えたら良いか分からず悩んだ経験がありました。その際に、同僚の先生や他校の先生など多くの先生に生徒の役に立つ相談をができるようになるにはどのようにしたら良いのかを聞きにいきました。今回の記事はその時に先輩から私が教わったことを体系化したものです。
この記事を読んでいただきたいのは、
- 塾講師や家庭教師を始めたばかりの大学生・大学院生
- 教育実習に参加する前の大学生・大学院生
- 来年度から先生になる予定の大学生・大学院生
です。
相談を受ける時の基本的な心構え
心構えとして大切なことを2つ教わりました。それは、
①「自分は万能ではない。」と認識すること。
② 子供ではなく大人として対峙した上で嘘を言わないこと。
です。
「自分は万能ではない。」と認識すること
「自分は万能ではない。」という認識がないと2つのよくない出来事が起こる可能性があります。
1つ目は、自分が生徒の役に立っていないと思ってしまい、精神的に病んでしまう場合があることです。そもそも、先生は相談のスペシャリストになるためのトレーニングを積んでいません。教職課程で「教育相談」を2単位履修するだけです。なので、生徒の相談に明確な答えを出せない場合もあるし、悩んだ表情や不安な表情が緩和されないまま生徒を帰宅させてしまうこともあるわけです。もちろん、その状況から学び改善策を考えることは重要です。しかしながら、自分を責めすぎるのは危険です。
2つ目は、生徒の心の傷をより深くしてしまう可能性があるということです。「自分が万能である」と認識していると、あらゆる生徒の相談に対応できると思ってしまいます。悪い言い方をすれば、風呂敷を広げすぎてしまうわけです。例えば、友達関係に悩んでいる生徒がいた時に「困ったらすぐに私の所に相談に来なさい。いつでも対応してあげるから。」と言ったとします。その言葉を真に受けた生徒が、朝も放課後も頻繁に相談に来るようになったとします。先生は忙しいですから対応できない時もあるでしょう。そうすると、生徒は「なんだ。口先ばっかりで全然相談にのってくれないじゃん。大人って信頼できないや。」と思ってしまうかもしれません。
子供ではなく大人として対峙した上で嘘を言わないこと
子供扱いしないというのは、悩みの重さは子供であろうと大人であろうと変わらないからです。「所詮子供の悩みだよね」という先入観を抱かずに、子供の真摯に話を聞きなさいと先輩から言われました。それはその通りだと思います。
嘘を言わないというのは、その文字通りですが、特に注意をするように先輩から言われたのは安易な共感をするなということです。例えば、生徒が「家族が経営している会社が倒産してどうしたらいいかわからないです。」と言った時の「大変だね。」がそれに該当します。その先生の家族がかつて会社を経営していて、先生が子供の頃にその会社が倒産し苦しい生活を送ったという背景があれば、「大変だね。」が本当の言葉に聞こえます。しかし、先生にその経験がないのなら、「終身雇用で安定的にそれなりの給料をもらっている先生が何を言ってるんだ。私の大変さが分かるわけないっでしょう。」という気持ちになる生徒もいるでしょう。この場合、どのような言葉が生徒を楽にさせるかはわからないですが、先生の本心に基づく言葉だったら響くかもしれません。私にはどの言葉が正解かはわからないです。
相談を3つに分類して対処する
ベテランの先生からの話を体系化した結果、生徒からの相談は大きく3つに分類されることが分かりました。
① 解決策を求めておらず話を聞いてもらえれば楽になる。
② 相談とは言っているが本心では承認を求めている。
③ 決断をするために必要な情報を求めている。
目の前にいる生徒の相談がこの3つのうちどれに該当するのかを見極めることが大切だそうです。また、会話の途中で相談の種類が変化する場合もあるので、その状況に応じて対応をする必要があるとのことでした。それぞれの場合の例と対処法を見ていきます。
聞いてもらうだけでいい場合
生徒の「相談があります。」を真に受けてはいけない場合です。生徒に「相談があります。」と言われると先生は解決策を提示しなければと思ってしまいがちです。でも、実は生徒はそれを求めていない場合があります。この場合、
「相談があります。」=「辛いことがあったので話を聞いてください。」
と捉えていいと思います。
しかし、注意をしなければならないのは、「辛いこと」の程度には大きな幅があるということです。「頑張っているのに成績が伸びない。」というレベルから、「大切な家族を不慮の事故で失った。」、「保護者がリストラにあった。」というレベルまで千差万別です。
前者ならある程度生徒の愚痴を聞き、生徒が落ち着いた段階で叱咤激励をするという対応で、生徒は先生のところに相談に来た意義を感じられるかもしれません。しかし、後者の2点に関しては、生徒の話を傾聴し、心から感じたことを伝えることぐらいしか先生にできることはないように思えます。安易な共感を示したり、いたずらに解決策を提示したりしてはならない場面です。
承認を求めている場合
「今まで理系だったんですけど、文転して文系の学部を受けたいと思いますが、どう思いますか。」と高校3年生が9月ぐらいに相談にくる場合を例として考えてみましょう。この相談は、「③決断をするために必要な情報を求めている。」の場合に分類される場合もあるでしょう。②と③のどちらに分類されるかは、生徒の話を聞く過程で決定すれば良いように思えます。
この相談が承認を求める相談ならば、生徒の判断の根拠を聞いた上で、それが論理的に納得できる理由であれば、背中を押してあげるだけでいいです。理系の学部の選択にも文系の学部の選択にもメリットとデメリットがあります。なので、生徒が既に決断をしているならば、応援するだけでいいと感じます。
決断をするために必要な情報を求めている場合
言葉としては上記の「今まで理系だったんですけど、文転して文系の学部を受けたいと思いますが、どう思いますか。」という言葉と全く同じにも関わらず、生徒本人が理系の学部の受験を諦めることに未練があり、理系の学部を受けるべきか文系の学部を受けるべきかを本当に悩んでいる場合です。
この場合は、理系の学部に進むメリット・デメリット、文系の学部に進むメリット・デメリットを懇切丁寧に説明した上で、受験科目が変わることによるメリット・デメリットや文転した場合の具体的な学習方法を説明するという対応になるでしょう。必要十分な情報を提供し、あとは生徒の判断を待つことになります。
相談に関するテクニック
私はテクニックという概念が好きではないので、テクニックというものに分類されることをあまり書きたくはありません。ですが、テクニックに該当するけど、1つだけ大切かなと思っていることがあるのでそれだけを書きます。それは、「相談時間を区切る」ということです。先生は忙しいです。相談の終わりの時間を決めないと、2時間も3時間も相談が続き他の業務が何もできないという状況になってしまいます。複数の先生からのアドバイスの平均をとると30分が適切な相談時間のようです。
まとめ
私は先輩から「基本的な心構え」と「相談を3つに分類すること」を主に学びました。
3つの相談の種類の中で、「③決断をするために必要な情報を求めている場合」が私が先生になる前にイメージしていた相談そのものでした。また、今でも先生として最も生徒の役に立っていると感じられる相談の種類がこの③の相談です。しかしながら、このタイプの相談が常に求められている訳ではないことを先生になってしばらくしてから実感しました。生徒の要望に合わせることは本当に大切だと感じています。
生徒からの相談への対応には正解はありません。より質の高い相談ができるようにこれからも学習をしていきたいと思っています。「こんな本を読んだらいいよ。」とか「こんなサイトが参考になるよ。」という情報がありましたら、EduCon(@Edu_Con_2019)までご連絡をいただけると嬉しいです。