今回は、子供のやる気を高めるために役立つ親の行動について書きたいと思います。
想定している読者の方は、
- 家庭で子供がなかなか勉強をしてくれないと悩んでいる保護者の方
です。
私は、教員として中学校や高校に勤務していたときに、親の行動に対する不満を生徒から聞くことが時々ありました。逆に、保護者の方から家庭において子供の学習へのやる気を高めるためにはどうしたら良いかという質問も受けました。私はそのような経験をメモしておくことで、親のどのような行動が子供のやる気を高めるのか、またどのような行動が子供のやる気を失わせるのかのデータを蓄積してきました。
しかしながら、科学的な実験をしている訳ではないので、自分が蓄積したデータに基づいた行動が本当に子供や親の役にたつのか不安でした。そんなとき、そのような疑問に対して、科学的根拠を提供してくれる書籍に出会いました。それは、教育経済学者の中室牧子教授が書かれた「学力」の経済学という書籍です。今回は、私が教員として経験したことの中から、中室教授が私の経験と関連のある科学的根拠を提供してくれている経験を基に、子供のやる気を高めることができる親の行動を紹介していきます。
なお、私は「学力」の経済学に書かれている内容が全て絶対的に正しいと考えている訳ではありません。経済学を専攻された方が見たらもしかしたら再検証必要な実験データ等も含まれている可能性もあるでしょう。しかしながら、データを用いて教育を分析するという姿勢そのものには強く共感しています。なぜなら、学校という現場においては、科学的な分析が不十分だと感じているからです。
文章中に生徒の発言が書かれていますが、それらは生徒の発言と一言一句同じではなく、言い換えたり要約したりした後の発言であることをご容赦ください。
子供のやる気を高めることができる親の3つの行動
「勉強しなさい」と言うのをやめる
子供のやる気を高めるために親ができることの1点目は、「勉強しなさい」と言うのをやめることです。
まず、私が中学生や高校生の生徒から聞いた親への不満を振り返ってみます。
勉強をしなければならないのは自分でもわかっているのに、毎日「勉強しろ。」と親から言われて逆にやる気を失います。
親は家に帰ってきたら携帯でゲームばかりをしているのに、なぜ僕は「勉強しろ。」と言われ続けなければならないのですか。納得できません。
このように、「勉強しろ。」と言われて子供が勉強をするようになることはほぼありません。
私の教員経験の中で、「勉強しろ。」と言われて子供が勉強するようになった、数少ない状況は以下の通りです。
いままで一度も「勉強しろ。」と言わなかった父親が今回の模試の結果をみて初めて「勉強した方がいいんじゃないか。」ということをその理由も含めて言ってきたんですよ。僕もそろそろ勉強しないとまずいんじゃないかと思ってたんで、昨日から心を入れ替えて頑張ることにしました。
しかしながら、これは例外と言ってよいと思います。
中室教授は「学力」の経済学の58ページから62ページで、「『勉強しなさい』はエネルギーの無駄遣い」と題し、実験結果を提示しながら、次のように述べられています。
①お手軽なものに効果はない
まず、父母ともに「勉強するように言う」のはあまり効果がありません。むしろ、母親が娘に対して「勉強するように言う」のは逆効果になっています。(中略)。逆に、「勉強を見ている」または「勉強する時間を決めて守らせている」という、親が自分の時間を何らかの形で犠牲にせざるを得ないような手間暇のかかるかかわりというのは、かなり効果が高いことも明らかになりました。(62ページ)
ここで、お伝えしておきたいことは、中室教授は小学生低学年の子供を対象にした実験データを紹介した上で、上記の考察をされている点です。私の経験は中学生や高校生を教えているときの経験ですので、中室教授が提示されている実験結果や考察が必ずしも私の経験に対する直接的な根拠を提示してくれている訳ではありません。
適切なご褒美をあげる
子供のやる気を高めるために親ができることの2点目は、ご褒美です。
以下のような生徒の発言から、私は子供への親からのご褒美が子供の勉強時間を増加させる要因になりうると感じました。
今度の期末考査で平均点以上とったら、親から携帯の新しい機種を買ってもらえることになったんで、いま勉強頑張っているんですよ。
次の中間考査でクラス順位が半分以上だったら、親から犬を飼っても良いと言ってもらえました。頑張るしかないですよね。
中室教授は「学力」の経済学の3ページで以下のように書かれています。
ご褒美で釣っても「よい」
また、中室教授は、同書の28ページから41ページでご褒美に関して詳しく言及されています。ご興味のある方はぜひ書籍をご覧になってください。中室教授はご褒美を肯定的に捉えていますが、私自身の教員としての経験からも子供にとって適切なご褒美は効果があるように思われます。
ゲームはある程度やらせてあげてもよい
子供のやる気を高めるために親ができることの3点目は、ゲームであれテレビであれ、子供の好きなことをある程度やらせてあげるです。
私は教員として2つのことを感じてきました。
- ゲーム好きで毎日数時間ゲームをやっている生徒が、学業で良い成績をとることがある。
- まったくゲームをしない生徒が、学業で良い成績をとれないことがある。
この2つのことから、「ゲームをやること」と「学業の成績」との間には因果関係がないのではないかと思うようになりました。しかしながら、それを証明するための研究をする時間はありませんでした。
この点について、中室教授は「学力」の経済学の56ページで以下のように書かれています。
テレビやゲームをやめさせても学習時間はほとんど増えない。
確かに、私自身も、スマホやゲームを親に取り上げられた生徒が、学習時間を増加させたという場面には遭遇したことはありません。テレビやゲームをやめさせようとするのではなく、それらをご褒美として上手く活用する方法を考えた方が、生徒のためになるように思いました。
おわりに
子供の教育に悩んだとき、子育てに成功した親の本を読みたいと思ったことはないでしょうか?
その本の内容はどこまで自分の子供に当てはまる内容なのでしょうか?
子供は一人一人が全く異なる性格や能力を持ちます。二人の子供がいるご家庭で、年齢が上の子供と年齢が下の子供とが、全く同じ性格で全く同じ学力だという経験をされた保護者の方はまずいないと思います。同じ家庭で育った子供ですら全く異なる性格で、全く異なる学力を有しています。ですから、別の家庭で育った子供と自分の子供の性格や学力とが一致するはずはありません。そのため、自分の子供に対して別の子供の成功例を即座に適応しようとするのはリスクが高いように思われます。
以上のことから、多くの子供に共通して適応することができる方法論を探して、それを自分の子供の状況を踏まえて取捨選択して活用していく方が、子供にとっても親にとっても幸せなのかなと感じています。そのため、今回は、私の個人的な経験を基にはするものの、なるべく多くの子供に適応可能な事例を紹介することを心がけました。