高等学校にライティングセンターを設置するメリット

教科指導
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今回は、ライティングセンターについて書きたいと思います。ライティングセンターについての詳細は後述しますが、一言で言うと「チューターとの対話によって、生徒の小論文作成を支援する機関」のことです。なお、チューターとは、ライティングセンターで生徒の文章作成を支援する人のことです。

読者として想定をしているのは、

  • 小論文指導に関する新しい指導方法を模索している高校の先生方
  • 保護者や生徒を引きつける新しい取り組みをしたいと考えられている私立学校の経営者の方

です。

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はじめに

みなさんは、高等学校における国語教育が、日本語による文章作成力を十分に高めることができていると思われますか?できていると思われる方もそうでないと思われる方もいらっしゃると思います。

多くの生徒は、ライティングのスキルを、それ以外の3つのスキル、すなわち、リーディング、リスニング、スピーキングと比較して、最も難易度が高いスキルと認識しています (ctd. in Aljumah 100)。 大学受験の小論文において、高校生は論理的でかつ説得力のある小論文を書くことを求められます。加えて、彼ら、彼女らは、大学・大学院卒業後に仕事に就くと、企画書、稟議書、報告書など、多様な書類を書かなければなりません。しかしながら、彼ら、彼女らが、小論文の書き方に関して十分な教育を受けてきているとは言い難い状況にあります (Watanabe 111)。 国語科の教員は、生徒の文章作成力を伸ばすために多大なる時間を費やす必要があるに関わらず、現代文、古文、漢文の授業準備、校務分掌、そして部活動の顧問等の仕事に追われ、生徒の小論文作成能力を向上させるための時間を確保することができていないのが現状なのではないでしょうか。一方で、文部科学省は教員に生徒の小論文作成力を高めるように要求しています (Japan. MEXT).

このような現状を踏まえると、小論文作成力を高めるための指導に関して、従来の指導法とは異なる新しい指導方法を試しても良いような気がしてきませんか。その方法の1つになりうるのがライティングセンターです。ライティングセンターとは、独立した書き手を育てるための機関と定義されています (Johnston et al).。ライティングセンターでは、チューターが対話を通して生徒に自分の小論文の改善方法を気づかせます (Ertl 50)。この生徒が自分自身で改善点に気づけるよう促すという観点が、従来の添削という指導方法とは大きく異なる観点です。

ライティングセンターの歴史について簡単に紹介します。ライティングセンターは、アメリカの大学において、少なくとも1970年代には存在していたといわれています (ctd. in Waller)。日本では、早稲田大学が日本で最初のライティングセンターを設立しました(Sanehira 38)。 現在では、複数の大学がライティングセンターを運営しており、それらの大学から、学生の文章作成力(英語でEssayを作成する力と日本語で小論文を作成する力との双方を指す)を向上させるという点において、ライティングセンターが効果的であるという事例が報告されています。

高校に関しては、国際基督教大学高等学校(以下、ICUHS)がライティングセンターを設置しています。ICUHSのウェブサイトを見ると、ライティングセンターが、高校でも生徒のライティング能力の向上に寄与していることが窺えます。

以上のことから、対話によって生徒のライティングスキルを高めるために、ライティングセンターをより多くの高校に設置した方が良いのではと考えるようになりました。その理由として、

  1. 高校生がライティングセンターから多くのメリットを享受できる
  2. 高校の教員もライティングセンターから十分なメリットを享受できる
  3. ライティングセンターの設置及び運営には困難が伴うかもしれないが、それらは克服可能だと思われる

の3点があげられます。

高校生に対してのライティングセンターのメリット

高等学校がライティングセンターを設置すべき1点目の理由は、ライティングセンターが、生徒が優秀な書き手になることを支援できるからです。ライティングセンターには生徒を優秀な書き手へと導くことができる3つの機能があります。

1点目は、ライティングセンターが教えることではなくコーチングに焦点を当てていることです。ライティングセンターに勤務するチューターは、生徒に何かを教えることを禁じられています。換言すると、チューターは生徒に考える行為の主導権を与えているということになります。チューターは、生徒に数多くの質問を投げかけることによって、生徒が自分自身で文章を書くことを支援します。生徒が環境問題に関する小論文において書くべき主題を見つけることができないという状況を考えてみましょう。この場合に、チューターは、次のような質問を生徒に投げかけていきます。

「今までに環境問題に関する、テレビを見たりを読んだりしたことはありますか。」

「環境問題から連想される言葉を10個あげてみよう。」

これらの質問は、生徒が主題を思いつくきっかけとなります。このような対話を通じて、生徒はライティングに関する自身の弱点を克服するための方法を身につけていきます。

2点目は、ライティングセンターでは、文章作成に関する全過程、すなわち、「構想」、「下書き」、「ほぼ完成」という3つの過程のいずれの場面でも、生徒の文章作成を支援できることです。ライティングセンターは、各生徒が抱える特定の弱点の克服を個別に支援します。なぜなら、それぞれの生徒の文章作成に関する弱点は千差万別だからです。例えば、主張を論理的に説明する段落を書くことが苦手な生徒がいるとします。その際に、チューターは、 以下のような質問を生徒に対して投げかけます。

「この文章の右側の文は何を意味していますか。」(Gillespie and Lerner 56).

この問いかけを契機として、生徒はその文章が何を意味しているのかを再考し、そして、それをどのように修正するのかを考えるようになります。このような問いかけをチューターからなされることによって、生徒は、文章作成における「構想」、「下書き」、「ほぼ完成」という全ての段階において、自らの弱点を克服し、書く力を高めていきます。

3点目は、生徒が他者の視点を認識できることです。まず、生徒は、ライティングセンターでの対話を通して、新しい考えに気づくことができます。Childersらは、チューターによって尋ねられる質問によって生徒が新しい考えを発見することができると指摘しています(ctd. in Ashley and Shafer 85)。新しい考えを発見できる理由は、チューターから問いかけられることにより、生徒が、自身が考えていることを、はっきりと言葉で表現しようとするからです。このように、生徒は、自分自身では明確に言語化できなかった考えを、自分の言葉で表現できるようになることによって、新しい考えを獲得できます。他者の視点という手助けを得ることによって、自身の小論文のどの部分がわかりにくいのかを認識することもできます。生徒が自身の小論文を音読している途中で、チューターは分かりにくい箇所を指摘します。すると、生徒は、それを読み手にとってよりわかりやすいものにしようとします。他者の視点によって、生徒の小論文はよりわかりやすいものとなります。以上ように、生徒は、チューターとの対話を通して文章作成の全段階における各技能を向上させ、同時に、作成中の文章そのものも洗練させることができます。

高校の先生に対してのライティングセンターのメリット

ライティングセンターを高校に開設することの2つ目のメリットは、それが小論文指導を担当する先生を手助けするということです。「そもそも小論文の指導をする時間を授業中に確保することなんてできないよ。」というのが先生方の思いかもしれませんが、国語の授業で小論文を扱っているという前提で話を進めさせてください。

まず、ライティングセンターは、教室で先生が実施している文章作成に関する授業を補完します。多くの国語の先生は、文章作成に関する全ての段階を支援してあげたいと感じていると思われます。しかし、先生方にそうする余裕はありません。結果として、先生方は、提出された最終版の文章の修正にしか焦点を当てることしかできていないのではないでしょうか。そのような場合、生徒が文章の最終版を先生に提出する前に、生徒の文章作成を支援してくれる協力者がいれば、その人に「構想」、「下書き」段階での文章の書き方の指導をお願いすることができるでしょう。ライティングセンターのチューターは、この協力者の役割を果たします。生徒は、先生に文章を提出する前に、文章作成に関して悩んでいることをチューターに相談できます。こうして、生徒は、チューターとの対話を通して、自身の文章をよりよいものにすることができます。結果として、生徒の文章作成の全段階を支援したいという先生の願望は実現されます。

次に、ライティングセンターは先生の負荷を和らげます。言い換えれば、先生が生徒の文章を添削するのに要する時間を削減します。メイン大学の文学部の助教授であり、メインライティングプロジェクトのディレクターでもある、Kent Richardは、多くの生徒によって書かれた文章の全てについて修正することはできないと主張しています(3)。それゆえに、先生に提出される文章の問題点が少なれば少ないほど、先生にとっては望ましい状態で文章が提出されているといえます。ライティングセンターは、その問題点を減らすことに貢献しています。なぜなら、生徒は、ライティングセンターにおけるチュートリアルを通して、文章の問題点を認識し、それを自らの手で修正した上で、先生に提出するからです。結果として、先生は、特定かつ重要なポイントのみに注目して文章を添削することができます。

最後に、先生は授業において小論文を扱う際に、チューターに支援をお願いすることができます。海外では、次のような事例が報告されています。文学の授業において、まず、生徒が扱う文章のテーマに応じて、生徒を3つのグループに分けました。3人のチューターがそれぞれのグループに加わり、生徒の文章について生徒に尋ねました。チューターがそうするとすぐに生徒はエッセイを修正しました(Fels and Wells 23)。これは文学の授業の例ですが、それ以外の授業においても、先生はチューターを活用することが可能です。チューターを活用することで、授業をより良いものにできるかもしれません。

ライティングセンターを設置・運営する方法

ライティングセンターを設置しようとある先生が思い立ったとしても、すぐにライティングセンターを設置できるわけではありません。大きく分けて3つの困難を乗り越える必要があるように思えます。3つの困難とは、校長はじめとする先生方を説得すること、チューターをできる人材を確保すること、そして生徒にライティングセンターの魅力を伝えることです。

 1つ目の困難すなわち同僚を説得するという困難を乗り越えるために、順を追って業務を進めていく必要があります。最初の段階は、先生方にライティングセンターという概念を認知してもらう段階です。おそらく、国語や英語を教えていない先生は、ライティングセンターという概念を知らないでしょう。ライティングセンターが設置されている大学、例えば早稲田大学など、を卒業されている先生は知っているかもしれません。まずは、仲の良い先生にライティングセンターの概念を伝え、反応を見ることになるでしょう。ある程度先生方にライティングセンターというものを知ってもらえたら、次の段階に移行します。次の段階は、ライティングセンターが生徒のライティングスキルを高めるという点で有用であるということを説明する段階です。ライティングセンターの設置に賛同してくれそうな先生にライティングセンターを設置している他校の成功例を説明します。そして、賛同してくれそうな先生と一緒に提案書を作成します。最後に、その提案書を持って校長先生に説明に行きます。この際に、ライティングセンターに関する専門的な知見を有する大学の先生を連れて説得に行くと提案が通りやすくなるとRichard Kent は述べています。

2つ目の困難は、優秀なスタッフを確保することです。一般的に、優秀なスタッフを雇用するにはお金がかかります。しかし、予算が潤沢にあるという高校は限られているでしょうう。そのため、スタッフを雇用するための費用を削減する必要があります。 削減の方法としては2つの方法が考えられます。1つ目の方法は、自校の生徒にチューターとして活躍してもらうという方法です。高校3年生が高校1、2年生のチューターを1週間に1回程度するというイメージです。ライティングセンターの開設当初に関しては、まず学校の先生がライティングセンターを運営している大学の先生から運営方法やチューターの仕事の進め方について教えてもらいます。次に、先生が最初にチューターになる高校3年生にチューターの仕事を教えます。次年度以降に関しては、高校3年生が卒業する前に、新高校3年生にチューターの仕事を引き継いでいく形でノウハウを継承していきます。2つ目の方法は、教職課程を履修している大学生にチューターとしては働いてもらえるようなプログラムを大学と協力して作ることです。教職課程を履修している大学生は学校において生徒に教える経験を積みたいという希望をもっているため、ボランティアであったとしてもチューターをしてくれる可能性があります。高校の近くに設置されている大学に教職課程を履修している学生を高校に派遣してもらえないか高校から打診します。アメリカのモントクレアにおいて、この方法によって大学生を派遣してもらえたことが報告されています (Kolba and Crowell 52)。 このようにして、費用を抑えてチューターを確保することが可能になります。

3つ目の困難は、多くの生徒にライティングセンターを利用してもらえるようにすることです。最も効率的な方法は、授業で小論文を書く課題を出し、1回は必ずライティングセンターを使うことを義務付けることです。この方法は主体的な書き手を育てるライティングセンターの理念から逸脱していますが、良いものを知ってもらうために最初はこのような方法を使ってもよいと思います。また、チューターに授業に参加してもらう機会を作ることで、生徒にチューターの役割を知ってもらうという方法も効果的だと言われています (Farrell 77)。

以上のような方法を用いることで、先生は3つの困難を克服できる可能性が高まります。

まとめ                                                        

ぜひ、高校にライティングセンターを設置することを検討してみていただければと思います。まず、生徒にとってメリットがあります。チューターと話すことによって、文章作成に関する全過程、すなわち、「構想」、「下書き」、「ほぼ完成」という3つの過程の、どの過程が不得手なのかを生徒が認識することができかつその弱点を克服することができます。生徒に加えて先生にもメリットがあります。ライティングセンターを設置、運用することによって、先生は生徒の小論文の重要なポイントだけを見ればよいことになり、業務が効率化されます。たしかに、ライティングセンターの設置には困難が伴いますので、全ての高校でそれを設置できるわけではありません。しかし、上述したような困難を克服する方法を採用することで、その実現の可能性は高まると思います。

引用文献

Aljumah, Fahad Hamad. “Saudi Learner Perceptions and Attitudes towards the Use of Blogs in Teaching English Writing Course for EFL Majors at Qassim University.” English Language Teaching. 5.1 (2012): 100. Print.

Ashley, H M, and Lisa Kay Shafer. “Writing Zones 12.5: Regarding the High School Writing Center as a Gateway to College.” Clearing House. 80.2 (2006): 83-85. Print.

Ertl , John. “The Role of Writing Centers: Student Learning Centers in the United States and their Applicability for Japanese Universities.” Forum of Language Instructors. 5. (2011): 45-61. Print.

Farrell, Pamela B. The High School Writing Center. Urbana: The National Council of Teachers of English, 1989. Print.

Fels, D., and J. Wells. The successful high school writing center. New York: Teachers College Press, 2011. Print.

Gillespie, Paula, and Neal Lerner. The Allyn And Bacon Guide To Peer Tutoring. Longman Pub Group, 2004. Print.

Japan. MEXT. “Kotogakkou Gakushushido Yoryo [High School Course of Study]” Japan Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology, www.mext.go.jp. Web. 14 Jan, 2013

Johnston, Scott, Steve Cornwell, and Hiroko Yoshida. “Handbook on Starting and Running Writing Centers in Japan.” Osaka Jogakuin College Kenkyukatsudo. Osaka: 2010. Print. Osaka Jaogakuin College., 11 Apr. 2011. Web. 16 Feb. 2013.

Kent, Richard . A Guide to Creating Student-Staffed Writing Centers: Grades 6-12. Peter Lang Pub Inc, 2006. Print.

Kolba, Ellen, and Crowell Sheila. “The Writers’ Room: The Story of a Writing Center.” English Journal. 85.6 (1996): 50-53. Print.

Sanehira, Masao. “Nihongonihon Bunkakyoiku ni okeru Writing Center ni kansuru ichikosatsu [Consideration of Writing Center in Japanese cultural education in Japanese].” Kobe Daigaku Ryugakusei Center Kiyo. 18. (2012): 38. Web. 18 Feb. 2013.

Waller C. Susan. “A Brief History of University Writing Centers: Variety and Diversity.” n.d. N.p. 2002. Web. 16 Feb. 2013. Watanabe, Tetsuji. “Kangae wo Bunsyokasuru Gijyutsu [The Skill to Put Your Idea into Writing].”Daigakukyoiku. 15. (2010): 111. Web. 16 Feb. 20